ユニクロのあのCMは何故心に引っかかってしまうのか理由を考えてみたという話

2021年8月15日

 どうしても心に引っかかるCMがある。流れる度に見てしまう。

 さりげない違和感。残念ながら好意的な意味ではない。

 その理由を少しだけ考えてみよう。

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気になるあのCMをもう一度確認してみよう

 まずはこちらを観ていただきたい。15秒版と30秒版とあります。

ウルトラストレッチスキニーフィットカラージーンズ UNIQLO 2020 Fall/Winter

15秒版

明日何を着ますか?
明日の自分は、ひとつじゃないと思うんです。
“黒”でキメたり、カラフルな色で遊んだり…。
でも今は、役者として、何色にも染まれる
“白”を選びます。
2本買い、しとこ。

UNIQLO ウルトラストレッチスキニーフィットカラージーンズ UNIQLO 2020 Fall/Winter

30秒版

明日何を着ますか?
あっ。大型バイクの免許、とったんですよ。
“黒”でキメたくて…。
ただ、全然乗ってません。
明日かぁ。ん~。
もし役者やってなかったら。絵とか文で、自分を表現してたかもしれないですね。
でも今は、役者として、何色にもなれる
まっさらな“白”でいきます。
汚しそう~。2本買い、しとこ。

UNIQLO ウルトラストレッチスキニーフィットカラージーンズ UNIQLO 2020 Fall/Winter

 15秒版は至って普通のCMです。

 どうした、30秒版。30秒版のグダグダ感が半端ない。構成がなんとも、いちいちどうして、気になって仕方がない。

 ちぐはぐな回答。唐突な自分語り。

 もう一度言おう。どうした、30秒版。

30秒版のフレーズについて確認してみる

 気になるこの30秒版。何がそんなにも気になってしまうのだろう。

 そのセリフについて、1つずつ分解しながら確認していきます。

明日何を着ますか?
 CMはこの質問に回答する形式をとっています

あっ。大型バイクの免許、とったんですよ。
 質問の答えになっていません。

“黒”でキメたくて…。ただ、全然乗ってません。
 黒でキメたくてバイクの免許を取ろうと思ったのは昨日今日の話ではない。そして、やはり質問の答えではない。

明日かぁ。ん~。
 明日着たいものです、とかツッコまれたのか。ここでようやく話の本筋に戻る。

もし役者やってなかったら。絵とか文で、自分を表現してたかもしれないですね。
 結局、質問の回答になっていません。

でも今は、役者として
 「でも今は」が掛かるところは、前項の「もし役者やってなかったら」に当たります。役者という職業に対するリスペクトが感じられない。

役者として、何色にもなれる、まっさらな“白”でいきます。
 ここは良い。製品の販促キャッチコピーとして優秀。正直ここだけで良かった。

汚しそう~。2本買い、しとこ。
 汚れが目立つという製品の弱点をクローズアップ。製品に対してのマイナスイメージにつながる。

 どうでしょう。

 15秒版と違い、30秒版に関して言えば、終始質問に対してちぐはぐな回答を繰り返した挙句、汚しそう、などと製品に関していい印象を与えずに閉めている。

 なぜこのテイクを放映したのだろうか。

なぜ15秒版と30秒版で印象が違うのか

 基本的にショートバージョンであるはずの15秒版と、本来のテイクであるはずの30秒版。よく見ると、この15秒版がショートバージョンになっていない。どちらかといえば、15秒版に余計な肉付けをしたのが30秒版という印象だ。

 最も違う部分はこちら。「でも今は」がかかる部分が15秒版と30秒版で全く異なる。

15秒版

“黒”でキメたり、カラフルな色で遊んだり…。
でも今は、役者として、何色にも染まれる
“白”を選びます。

UNIQLO ウルトラストレッチスキニーフィットカラージーンズ UNIQLO 2020 Fall/Winter

30秒版

もし役者やってなかったら。絵とか文で、自分を表現してたかもしれないですね。
でも今は、役者として、何色にもなれる
まっさらな“白”でいきます。

UNIQLO ウルトラストレッチスキニーフィットカラージーンズ UNIQLO 2020 Fall/Winter

 15秒版は、複数色のバリエーションの中から好きな色を選べるが、自分は役者なので何色にも染まれる白を選びます、という製品主体のCMになっている。

 これが30秒版になると完全に自分語りであり、製品の販促という主目的を達成していない。

 この違和感が起点となり、製品の販促を果たしていない部分に留まらず、薄っぺらい自分語りについてもいちいち気になってしまうのだ。

 そう、この自分語り。とても気になります。

モノづくりをする人に共通する30秒版から感じる不協和音

 恐らく、この30秒版に感じる違和感は、プロアマ問わずモノづくりや表現を生業としている(したかった)人に共通の感覚だと思っています。

 最も心に引っかかっているフレーズは、ここ。

もし役者やってなかったら。絵とか文で、自分を表現してたかもしれないですね。

 もし役者をやっていなかったら。「もし」を考えている時点で、役者という職業に対するこだわりが感じられないのです。役者という職業を生業とし、全国区のCMに出ている立場にありながら、「もし」なのです。このCMの若者(非、坂口健太郎氏)にとって、役者は表現の手段のひとつであって、別に役者でなくてもいいのです。

絵とか文で、自分を表現してたかもしれないですね。

 絵や文に真剣に取り組んでいる人達に対して、大層失礼であろうと感じるのは自分だけだろうか。

 表現の世界において、思うように表現するためには、それ相応の技術が必要。技術とは努力や経験の賜物。その時間軸を一言で飛び越えようとする、このセリフ。違和感以外の何物でもない。

 黒でキメたいという薄っぺらい理由でバイクの免許を取るまでは、まあいい。その後、バイクに全然乗っていないような人が、絵や文で表現ができるレベルまで上り詰めることができるとは、到底思えない。

 ここまで一連のセリフが言える立場にある人物が居るとすれば、役者でも絵でも文でも、どの分野においても、それ相応の結果を残しているような、相応に年季の入った人物だけだろう。

 残念ながら、このCMのシナリオで説得力を持って配信するには、坂口健太郎氏の配役では若すぎるのだ。

役者をやっていなかったら、の先を変えてみる

 あくまでもモノづくりをしている人には一定の理解を得られると思っていますが、ここまで何をそんなに憤っているのかが理解できない人も、それなりに多いと思います。

 そこで、このCMの若者(非、坂口健太郎氏)が役者をやっていなかった場合に選ぶべき職業は。その先を色々当てはめてみたいと思います。

 表現の世界とは別のカテゴリーにある職業へ当てはめる場合、ちょっと意味合いが変わってしまうので、職業の頭に「カリスマ」を冠します。これでクリエイティブ感がグッと上がりますので、「表現」を目的に据えた土俵での比較が可能となります。

 それでは確認してみましょう。

もし役者をやっていなかったら

  • カリスマ主夫として自分を表現していたかもしれないですね
  • カリスマバイク整備工として自分を表現していたかもしれないですね
  • カリスマドライバーとして自分を表現していたかもしれないですね
  • カリスマ店員として自分を表現していたかもしれないですね
  • カリスマ弁護士として自分を表現していたかもしれないですね
  • カリスマ事務員として自分を表現していたかもしれないですね
  • カリスマ保育士として自分を表現していたかもしれないですね
  • カリスマバイトリーダーとして自分を表現していたかもしれないですね

 いやいや。役者やってろよ。

30秒版におけるCMの販促性

 肝心の、CMの販促性としてはどうだろう。

 15秒版は理にかなっている。CMの販促性としても十分な効果が期待できるだろう。しかし、30秒版になるとどうか

役者として、何色にもなれる、まっさらな“白”でいきます。

 ここは先だって書いた通り、製品の販促キャッチコピーとして優秀。正直ここだけで良かった。問題はこの先。

汚しそう~。2本買い、しとこ。

 確かに白のズボンは汚れやすい。役者として何色にもなれる、つまり自分色に染めるという暗喩を込めたかったのかもしれません。しかしその場合、クローズアップされる焦点が、製品ではなく役者である若者(非、坂口健太郎氏)に合ってしまう。

 製品自体には汚れやすさという印象にスポットライトが当たってしまい、製品の販促性としてはいささかマイナスではないだろうか。

類似製品のCMと対比して感じたこと

 このCMを通じて、坂口健太郎氏個人に対しては何とも思っていません。

 構成作家なりのシナリオに沿って演技しているのだろうから、逆にプロとして尊敬します。全国区のCMでこんなことを言わなければならない。自分にその勇気と覚悟はない。

 このように、企業に対しても、製品に対してもいいイメージが沸かない。ひいては、セリフを発している坂口健太郎氏など、明らかに印象が落ちる。

 個人的な意見として言えば、誰一人得をしないCM。まるでいいところが感じられない。ロボコン0点だ。

 同じジーンズのCMでも、90年代のこちらのCMなど秀逸だ。

1993 CM EDWIN SOMETHING

 フランスのシンガー、エルザのヒット曲、T'en va pas (邦題:哀しみのアダージョ)をBGMに、女性向けジーンズのスタイリッシュさをアピールした作品。

 蛇足だが、T'en va pas(トンバパ)は原田知世がカバーしたことでも有名。一時期エルザの音源が版権の問題で手に入らず、原田知世版を求める人も居た。

 閑話休題。

 こちらで紹介したジーンズSOMETHINGのCMは、今回の真逆に位置する優秀な作品である。タイアップした楽曲、製品の販促度、CMの作品性。どの角度から捉えても、最良のマッチアップで構成されている。CMとはこうあるべきという、歴史に残る成功例と言っていいだろう。

 とはいえ、銘の浄・不浄を問わないのであれば、今回のCMも成功と言える。少なくとも、心に刺さって抜けない人物なら、ここに一人居る。

 ユニクロの店舗に行ったなら、思うだろう。

 ああ、知ってる。あのジーンズか、と。

 汚しそう。2本買いしとこ。

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