ぶらり一人旅の話(4)
銭 湯 開 始
銭湯。それは疲れた心と身体をそっと温める憩いの場。
そんなのんきな状況ではない。それこそ小刻みに震えながら足早に駆け込む。早々に湯船に浸かりたい気持ちをグッとこらえ、まずは洗髪から。
ロン毛男子と男子風呂は相性が良くない。何故か。それは大抵の場合、奴が男らしくそびえたっているからだ。
そう。リンス・イン・シャンプー。
分かります。分かるんですけど、本当勘弁していただきたい。リンス・イン・シャンプー程度のリンス分では足らんのです。リンス・イン・シャンプー程度のリンス分では全くサラサラにならんのです。
この銭湯の利用客の大半はリンスなどしないのでしょう。OK分かった。でも俺にはリンスが必要です。
どこの企業でもそう。経費削減は経営を成り立たせるために必須です。ですが申し訳ございません。リンス・イン・シャンプーだけは勘弁して欲しかった。
こんな時のためにリンスだけは持参しているので、こんな大騒ぎする必要ないんですけどね。
松本駅前は青かった
さて、気を取り直して駅前へ向かう。歌う場所はどこだろう。まずは下調べから。
駅近くのコインパーキングへ車を収める。風は冷たい。防寒着を羽織り、駅へと足を向ける。
事前にネットで調べた情報から判断する限りでは、駅の反対側口で大体の人が歌っているようだ。駅構内を抜けて反対側……あ、ニューデイズでお土産売ってる。
そうだよね。観光地の駅構内のコンビニは土産物屋の機能も備えている。そうだそうだ。お土産を買わなきゃ。
……待て待て。いかんいかん。現実逃避してしまった。
いやいや、信玄餅は山梨だろう。
……違う違う。土産を探している場合ではない。
様々な誘惑を超えて反対側口へたどり着く。
ああ、天気いいなあ。
ではなくて。いやいやいや。みんな度胸ありすぎだろう。こんなオープンスペースで歌うなんてどうかしている。
一周。もう一周。
怪しげなおじさんが晴天の観光地の駅前をウロウロと回りだす。さて、どうしたものか。
──続く──
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